コサメット

日本人ギャルで溢れる、と聞いたが……

1994年4月

五月の連休を前にして、日本の週刊誌に興味をひく記事が掲載された。
「日本人ギャルで溢れる、タイのビーチ、コサメット」とあるではないか。日本には日本人ギャルが溢れているのに。熱帯、タイで日本人ギャル。日本では見られない、赤裸々な光景があるんじゃないかな? ほら、行きたくなるでしょ。わたしもです。ご同輩。

すぐに、タイ国際航空の機上のひととなった。バンコクに到着すると、ドンムアン国際空港から、タクシーをチャーターし、船着場へと急行。だって、早く行かないと、日本人ギャルに逃げられてしまうじゃありませんか。



バン・ペーの船着場だ。疲れきった表情の白人男性が北京原人に似た顔つきのタイ娘の腰に腕を回している。

船が波を切る。飛沫がかかる。
タイ女性は体を丸め、男の腕の中にすっぽりと入っている。居心地がよさげだ。男は微動だもせず、女を抱いている。
ほかにはタイ人のグループだ。フルーツや揚げバナナで、絶えず口をくちゃくちゃと動かしている。彼女も連れず、コサメットに赴こうと、無謀な試みは私だけ。居心地が悪い。

コサメットの白い砂浜を陰気に歩いている私の目に、パラダイスが映った。
色とりどりの水着。豊満な白い乳房。パラソルに太陽の光を遮らせず、裸体を晒している白人女性。スゴイ!
皮膚癌にならないようにね。大丈夫かな。彼女たちの皮膚は、私のようにヤワではない。象さん顔負けの分厚さ。癌のほうが彼女たちを敬遠するかも。

白人二人の腕にぶら下がりながら、日本人女性2人が波打ち際を散歩している。日本人ギャルじゃないか。指をくわえてしまう。だが、日本人女性は白人と散歩している2人だけ。溢れていないのだ。

ビールにしようか。
期待はずれもいいところだ。自慢の凛々しい眉毛が逆三角形になり、鼻息も荒くなってくる。

髪を長くした日本人の男がくる。インドあたりから流れてきたのか。疲労感が顔にでている。ああ、男が話しかけてくるじゃないか。困ったよう。

結局、日本人ギャルなんていない。週刊誌を恨むのだ。
戻ろう。船に白人とタイ女性のカップルが乗った。体格の良いハンサムな青年と、背がすらりとして色の黒い女性だ。二人は口をきかない。前夜、二人になにがあったのだろう。女性の髪が風になびいている。

女性は長い足を橋げたにかけて、一人で行ってしまう。白人は荷物を集めている。わたしも簡単に足を橋げたにかけた。見栄を張って、女性と同じようにしたのだが、長さが違う。桟橋にあがれない。びりびり。股が裂けそうだ。





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