チェンマイ

バンコクからチェンマイ、鉄道旅


1993年5月



ホアランポーン駅(バンコク)で戦う

チェンマイ行き列車、夜が明けた。
ホテルからサムローでホアランポーン駅に突っ走った。地方から到着した陽に焼けた人々がバス乗場で叫んでいる。

これから夜行列車で郷里に帰るのか、色の白い娘さんが立っている。セーラー服のそれよりも大きな襟をつけたブラウスを着て、買ったばかりの毛布やお土産を入れた袋が足元にある。


注:サムロー
小型三輪タクシー。神風のように失踪する。ドアがないので怖い。

舞踊レストランにて、チェンマイ
右に左にひとをかき分け、改札口に突進する。すでに、午後7時30分。チェンマイ行きの急行列車は7時40分に発車するのだ。
背中から汗が噴出す。
右手にかばん、左手で他人の体をどける。改札口の大時計の針がすーっと動く。7時36分だ。
「ここを通らせてください」
プラットホームに入るには金網にしつらえた改札口を通らなければならない。
「切符」
駅員に両手をあわせ、微笑む。
「ないんです。7時40分発のチェンマイ行きが出ちゃう。乗ってから、切符を買います」
「切符、売り切れ」
腹の出た駅員はぶっきらぼうだ。この間に、なにやらアナウンスが流れる。チェンマイ行きがホームを出ていってしまう。

人ごみに押されながら、出発ボードを見る。次のチェンマイ行きは午後10時40分だ。汗がまた噴きでる。


レストランの料理
今度は切符売場に並ぶ。長蛇の列だ。いくつもの列が交錯し、どれがチェンマイ行きの窓口の列なのか? こんなところにエイズ菌入りの注射器を持った男が現れて、振りかざしたら地獄だ。
黙って、人の間をすり抜ける。並んでいたのでは次のチェンマイ行きの切符も買えない。すみません、などとは間違っても言わず、人を押しのけ、突き飛ばし、窓口の最前列にキリギリスした体を割り込ませる。


注:切符売場
コンピュータ化されていない。
タイ人のように強引である。体をかがめ、カウンターの前で、短い足を精いっぱい伸ばす。ついでに眉毛も伸ばす。その上、いい年をした窓口氏に笑顔だ。
「チェンマイ、1枚、片道」
こんなとき、絶対、タイ語は使わない。タイの事情に疎い、馬鹿な日本人を演ずるのだ。演じなくても地で行けるって? はい、そうかも。

体がカウンターへ圧迫され、千切れそうだ。でも3等の切符が買えて満足だ。

ホームはベンチの数が極端に少ない。
熱帯のべとついた空気が絡みつき、すぼんが湿っぽい。隣には家族連れが、ダンボール箱を身の回りに積み上げ、城壁を築いている。風が入らず、いっそう暑くなるだろうに。
「わたし、チェンマイに行くよ」
知らない人に話しかける。開襟シャツのおじさんは、不思議なタイ語を聞いて笑うだけである。
「あなたはどこに行くの?」
熱心な質問にも、おじさんはサンダルを履いた足を組みかえるだけである。

他のホームからはノンカイやハジャイ息の夜行列車が次々に出て行く。連結部まで人で溢れ、屋根に登っているひともいる。つくづくと切符を見る。赤い色をした3等の自由席だ。2等と3等しかない列車。2等のみが座席指定だが、すべて売り切れ。
やばい。チェンマイまで14時間。立っていくには、少々堪える年齢だ。
ぜひとも1席確保しなければならない。暑さにうだりながら、何でチェンマイにそれも列車で行こうとするのか?

玉本さんにあやかりたいのではあるまいな? 実は、国境にあこがれるのだ。国境と書いた札。そんなものをみたいじゃないですか。

2時間が過ぎる。アナウンスがチェンマイという言葉を連発している。背後のプラットホームに到着した列車に人々が殺到し、線路から窓によじ登り、荷物を放り投げて席をとっているじゃないか。
プラットホームが案内と違うぞ! ずるい! 窓によじ登り、座席を確保する。隣にはうら若き女性が2人。向かいにはスコータイの寺に修業にいくという男性。とても思慮深く,慎みも深そうだ。


少数民族



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