クムジュン村まで |
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「クムジュン村にハイキングに行く人は、食事のあと、1時にロビーに集合してください」 ホテルに到着すると、日本人の女性マネジャーがてきぱきと言った。 「雪男の頭皮があるんだ」 クボさんは何でも知っている。 「どれくらい、歩くの?」 行きたいのだが、高山病が怖い。 「戻るまで、3時間もあればいいでしょう」 「3時間? 止めよう。胸が破裂しちゃう」 すでに酸素が薄く、どきどきしているのだ。 だが、昼食のカレーライスを食べているうちに、力がみなぎってきた。 「行くぞ」 |
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地球上にこんな荒涼とした世界があるのか。 |
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スペインさん、クボさん、それにわたしの4人はテンジンさんの案内で出発した。ヤクが草をはんでいる。しばらく歩くとクムジュン村が眼下に広がった。村の入口にはチョルテン(マニが刻まれた平たい石が一列に並ぶ祠)がある。 谷の底に茶色の畑と家が白く見える。シェルパ族の村だ。石垣をつくり、耕作をしている。荒涼としている。村は70戸。電気、水道? そんなものはない。まるで異界の光景が広がっている。 クボさんが静かだ。唇がやけに紫色だ。歩くのも遅れがちだ。囁かないのはうれしいが、心配な面もある。 |
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テンジンさんの自宅で |
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テンジンさんの家に寄せてもらった。1階で家畜を飼っている。そこを踏み越えて、2階にあがる。居間である。 テンジンさんの奥さんが、熱い濁り酒と塩とバターの入ったチベタン茶をだしてもてなしてくれた。 トイレは別棟にある。済ませると、畑に落下するようになっている。紙が散らかっていない。植村克己さんの著書、エベレストを越えて、によれば、芥子をたくさん食べるので、紙で拭く必要がなくストンと落ちるそうだ。 ← 植村さんが使ったベッド |
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ラマ教の寺で雪男の頭皮を見る |
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もうクボさんは囁かなくなってしまった。 ダライラマの写真が飾ってあるラマ寺で雪男の頭皮をみても感動しない。 ありがたい読経を聞いても上の空だ。ため息は多い。その日、クボさんは食事もとらずベッドに入ったそうな。翌朝までに、酸素ボンベを3本、空にしたそうである。 |
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雪男の頭皮 |
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ヤクの肉 |
雪男の頭皮 |
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