ジャカルタ

オリエンタル・ビューティーを求めて

1991年12月




ピテカントロプス、ジャカルタ


日本では夜になっても、電光が爛々と輝いているので想像できないかも知れませんが、東南アジアの道路は暗いですな。ジャカルタの目抜き通り、銀行やショッピング・センターが軒を連ねている通りでも、思わずバッグをしっかりと握り締めてしまうほど不気味な暗さです。

不覚にもサラダを食べてしまったことを後悔しながら、薄暗い大通りを歩いていました。バスが黒煙を撒き散らしながら近づいてきました。
「乗るのかい?」
車掌が身を乗り出して、声をかけます。
「乗らない」
排気ガスに頭をぼおっとしながら、答えました。ジャカルタでは、最高級ホテルに宿泊しても決してサラダを食べてはいけない。ジュースも飲んではいけない。氷から、野菜を洗う水から、腹をやられてしまうという忠告を受けてきたのです。

レストランでメニューをみているまでは覚えていたのです。ほら、007という映画、その映画に出演していたようにきれいな東洋の美女を見たのです。向かいのテーブルです。ボンド・ガールに似た女性がジュースを飲んでいました。


ジャカルタ、博物館
エラが張って、目が左右に分かれている。よく、白人が東洋の女性を連れているでしょ。あれなんです。なんで? 我々から見ると、そんな感じの女性です。

その女性と目があったとたん、ジュースとサラダ、それにナシゴレン(焼き飯)を注文してしまったのです。

ジュースのコップを上げて、乾杯のしぐさです。すると、彼女もコップを持って微笑むではありませんか。立て続けに、ジュースを2杯飲み干し、サラダをむしゃむしゃと食べ、生きのよいところを見せました。




ジャカルタ→バンドン間
お茶畑
それなのに、どうしてわたしが一人で歩いているか、ですって?
彼女は待ち合わせだったらしく、連れがボンド・ガールをさらって行ってしまったのです。すると、急に冷静になりました。口に入れてはいけない食べ物のリストを思い出したのです。

もう、下痢がくるかな。まだかな? こうして歩くのも、緊張感があってスリル満点です。
ホテルの帰り道に川があります。脇には線路です。何気なく土手に目をやると、どうも異様な雰囲気がします。

薄暗い電灯の下を人が行き来しています。夕涼みか。
でも、おかしい。彼らは散歩ではない。橋の下は駅ですから、ダッシュして改札口を走り抜けました。線路を跨いで土手に上ったのです。ろうそくを灯している。小さな台にパンを置いて売っています。土手を歩いているのは男同士、オンナ同士です。異様な感じがします。

土手にしゃがみこんでみると、女性がとなりにやってきました。なかなかのオリエンタル・ビューティーです。やはり、そうだったのか?

バンドンの国際会議場。ネールも、周恩来も、
金日成も、スカルノもここに集まった。
感覚の鋭さに、どきどきしてきました。
「どお?」
びっくりしました。男性の声なんです。驚いて震えているわたしの手をとって、撫ではじめました。
「行こうよ」
もう、ほうほうの体で、ホテルに戻りました。


それで、オリエンタル・ビューティーはどうしたのかって? 博物館で会えました。ピテカントロプスです。白骨ですが、すらりとして飾り気のない素敵な女性でしたよ。

このページの最初の写真がそうです。素敵でしょ。



■ アジア旅行記 目次
inserted by FC2 system