サムイ島

トップレスと白い砂

1991年11月



「今度、サムイ島へ行こうと思ってるんです」
「へえ、それ、どこ?」
「タイなんですよう。ガイドブックに、トップレスの白人女性が日光浴をしていると書いてあるんです」
「何? トップレス? 航空券、俺の分も買っておいてくれよ。そのトップレスというのは本当なのだろうな。冗談はイヤだぜ」
「任せてください」
「それじゃあ、望遠レンズを買いに行くかな」

「やっとバンコクか。ここで乗り換えるの?」
「あと、1時間です。楽園が待ってますから。おや、離陸です。イチバン前の席でよかったですね。CAと向かいあってシートベルトですね。あなたの苦みばしった顔をみて、はにかむのがたまりません。駄目ですよ。そんなところで無闇に話しかけちゃ」
「美女への礼儀っていうものがあるだろ」
「ここはイタリアではありません。やめてくださいったら」

「さすが、白い砂ばかりですね」
「そんなことより、トップレスはどこだ」
「いませんね」
「おい、男性はトップレスとは言わないからな」
「詰めますねえ、仕事でもそのくらい詰めて欲しいですね。向こうにパラソルが開いていますから、行ってみますか」
「遠いなあ。4Kmはあるぞ」
「苦労のあとには、よいことがあるはずです」

「頭がくらくらしてきた。浜の照り返しが強烈だ。もうくたばってしまいそう」
「もうすぐですよ。でも、大の大人が2人、ぶつぶつ言いながらリゾート地を歩くのは、悲しい姿ですね」
「あっ、トップレスだ。駄目ですよ。走っちゃ。女性のところに駆けつけて。もう、話しかけている。連れがいたら、殴られますよ。それでもいいか。ぼくも走ろう」

「インペリアルホテルのビーチは年がいったひとばかりですね」
「羞恥心もなく、水着を脱いでしまう。目のやりばに困るな」
「ごろごろいますね」

「どうして、欧米の婦人は日本人を前にしても恥ずかしがらないのでしょうか」
「そうだな」
「日本人なんて、男としてみていないんだ。だから、どの女性も日本人の前で裸になるんです。それにしてもすごい」
「おい、ホテルに戻ろう」

空港の建物
「やはり、我々はコーヒーショップでタイ人を相手に話すのがいいですね」
「そんなこと言ったって、客は俺たち2人だけ。もう、夜の10時だぜ。やっと、歌手が現れたな」
「手を振らないでください。女性とみれば、すぐににこにこするんだから。今日は貸切ですね。ああ、おいでおいでをしないでください。来ちゃったじゃないですか。眉毛を八の字にして、喜ばないでください。もう、いやだなあ。手を握っちゃって。支離滅裂に口説くんだから」

「あーあ、指でおでこをちょんだなんて。もう、デイトの約束をしたのですか? しっかりしていますねえ。仕事からは想像もできない緻密さですねえ。あなたの好みは分かってきましたよ。エキゾチックな顔、均整のとれた肉体の女性がいいのですね。自分と反対ですね」


空港の待合室



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